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コンクリートはもう古い?【脱炭素の主役】世界が注目する「ヘンプクリート」の衝撃と日本の現在地

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建設業界が抱える最大の課題、それは「二酸化炭素(CO2)の排出」です。実は、世界の総CO2排出量のうち、建物の建設や建材の製造(特にコンクリートの主原料であるセメント)が占める割合は莫大であり、脱炭素社会の実現において避けては通れない壁となっています。

そんな中、海外を中心に「次世代のカーボンネガティブ建材」として急速にシェアを拡大しているのが、麻(産業用ヘンプ)を主原料とした「ヘンプクリート(Hempcrete)」です。

今回は、コンクリートの常識を覆すヘンプクリートの驚異のポテンシャルと、日本国内におけるリアルな現在地について徹底解説します。

工場で成形されたヘンプクリートブロックの施工風景. ソース: Bloomberg Creative / Getty Images
工場で成形されたヘンプクリートブロックの施工風景. ソース: Bloomberg Creative / Getty Images

ヘンプクリートとは?「育つほど地球を救う」仕組み

ヘンプクリートは、産業用ヘンプの茎の芯(木質部である「オガラ」)と、石灰(ライム)ベースの結合剤、そして水を混ぜ合わせて作られるバイオ複合建材です。

最大の特徴は、製造から廃棄にいたるライフサイクル全体で、排出するよりも多くのCO2を吸収・固定する「カーボンネガティブ(炭素負債)」な性質にあります。

なぜコンクリートより圧倒的にエコなのか?

  1. 驚異的な成長スピードによる炭素固定: ヘンプはわずか約4ヶ月で最大4.5メートルまで成長する1年草です。その猛烈な光合成の過程で、森林よりも効率よく大気中のCO2を体内に吸い込み、有機炭素として茎に閉じ込めます(UK Hempcreteによる解説)。
  2. 硬化プロセスでの追加吸収: バインダー(結合剤)に使用される石灰は、施工された後も何十年もかけて大気中のCO2を吸収しながらゆっくりと石灰石へと戻り、さらに硬化していきます。

The Limecrete Companyのファクトシートによると、ヘンプクリート1立方メートル(m3)あたり約110〜165kg(ブロック成形方法によっては最大470kg)のCO2を半永久的に内部に隔離できるとされています。

性能比較:コンクリートと何が違う?

「クリート」という名はついていますが、従来のコンクリートとは物理的特性が全く異なります。

特性従来のコンクリートヘンプクリート
構造強度(圧縮強度)非常に高い(建物の骨組みになる)低い(単体では建物を支えられない)
重量・密度重い(約 2,300 kg/m3)非常に軽い(約 275 kg/m3)
断熱・調湿性低い(結露しやすい、外断熱が必要)極めて高い(壁自体が呼吸して湿度を調整)
環境負荷(GWP)高い(世界のCO2の約8%がセメント由来)大幅にマイナス(カーボンネガティブ)

重要な注意点: ヘンプクリートは「構造材」ではなく、柱や梁(木造や鉄骨など)の間に充填する「断熱材兼、壁体(へきたい)を形作る素材」として使用されます。

科学誌に掲載されたヘンプクリートブロックのライフサイクルアセスメント(LCA)研究でも、従来の建材からヘンプに置き換えることで、地球温暖化への悪影響や生物多様性への負荷を劇的に低減できることが実証されています。

日本におけるヘンプクリートの「現在地」と課題

世界中で法改正が進み、アメリカの国際住宅基準(IRC)にも正式登録されるなど、グローバルでは「普通の選択肢」になりつつあるヘンプクリート。では、私たちの住む日本ではどうでしょうか?

結論から言うと、「大きな法改正の波が来ているが、建築基準法の壁がまだ高い」という過渡期にあります。

① 「大麻取締法」の改正という追い風

日本でヘンプクリートが普及しなかった最大の要因は、原材料の入手難易度でした。しかし、2023年末に「大麻取締法」が改正され、THC(幻覚成分)がほとんど含まれない「産業用麻」の栽培について、合理的な規制のもとで国内生産・活用を推進する土台がようやく整いました。これにより、国産のオガラ(麻の茎の芯)を建材として安定供給するための道筋が見え始めています。

② 日本の建築基準法(防耐火・防炎性能)の壁

ヘンプクリート自体は石灰に覆われているため非常に燃えにくい素材(欧州基準では1時間の耐火テストをクリア)ですが、日本の厳格な防耐火性能の個別認定はまだ取得していません。 植物の破片が混ざっているため、表面を直接激しい炎で炙ると一時的に微量発熱してしまう点が、現行の日本のテストをストレートにクリアできないハードルとなっています。

一級建築士であり「麻壁らぼ」代表の田島まはる氏のインタビュー(reallocal)によると、「表面に漆喰を塗るなどの条件をクリアすれば耐火テストを通すことは十分に可能」とされており、現在、国内の有志によって法適合に向けた検証が進められています。

4. 国内の先駆的な実例

法律の制限を受けにくいエリアや、工夫を凝らした設計によって、日本国内でも少しずつ形になったプロジェクトが登場しています。

  • 日本初のヘンプクリートサウナ(北海道当麻町): 「麻壁らぼ」が手がけた “Koti Private Sauna” では、ヘンプクリートの高い調湿性と「スタジオの吸音パネルと同等」とされる優れた防音性能が活かされ、極上のリラックス空間が実現しています。
  • 「土に還る家」の自邸(兵庫県伊丹市): 建築家の大森健二氏が、2023年にヘンプクリートとストローベイル(藁のブロック)、国産檜を融合させた住宅を完成させました(Kuwahara Hempcreteによるプロジェクト事例)。数年をかけて、日本の高温多湿な気候における耐久性や熱効率のリアルな検証が行われています。

これからの建築のスタンダードへ

「コンクリートはもう古い?」という問いに対して、構造を支える役割としてのコンクリートがすぐになくなるわけではありません。しかし、「建物の壁すべてをコンクリートや化石燃料由来の断熱材で作る」という常識は、間違いなく古くなりつつあります。

日本特有の「湿気」や「四季の温度変化」に対して、エアコンに頼り切るのではなく、壁自体が呼吸して室内環境を整えてくれるヘンプクリートは、実は日本の気候に最も適した伝統的かつ最先端の建材と言えます。

法規制のクリアと国内の加工サプライチェーンの構築が進むこれからの数年で、日本の街並みや住宅の選び方は、より「地球に還る」方向へとシフトしていくはずです。